A Fine Western-Lifestyle Companywww.funny-western.co.jp

SPIRITS

CLAW POINT - MITSURU SUGIURACLAW POINT 杉浦 充 インタビュー 03

アメリカで出会ったウェスタンブーツ修理

―― 一見、もの静かそうに見える杉浦氏の外見からは、単身アメリカに乗り込んで技術を掴み取ってこようと意気込む青き若者の姿はなかなか想像できない。気負わず、自然体で飛び込んだアメリカでは、何が待っていたのか。

アメリカでは、直接靴屋に行って頼み込んだり、電話をしたりして雇ってもらえるところを探しました。最初に受け入れてくれたところで仕事を始めてみたら、じつは下手な修理屋さんだったんです。「お前やってみろ」ということで渡された靴を修理してみたところ、思いがけないことにかなり評価していただいたようで、給料を増やすからそこで働いて欲しいと言っていただいたんです。

でも私は自分に技術がないのは重々承知していましたし、それを学びにアメリカに行ったのですから、今のレベルでちやほやされていたら先はないと思ってお断りしました。そこからまた店を探し始めて、渡米から3か月くらい経った頃でしょうか、ちょうどお金もなくなってきたとき、ある修理屋さんで働き口が見つかりました。そこが、ウェスタンブーツの修理の得意なところだったんです。

アメリカは、できない奴は雇いません。私もすぐに現場で「これをやれ、あれをやれ」と仕事を振られ、やりながら学んでいきました。その店ですべてを教えてもらいましたが、つきっきりで教えるというわけでもなく、「これやっとけ」という感じです。でも突き放してしまって面倒を見ないというわけではなく、「ダメだったら俺が直してやるからやってみろ」という方法ですね。だから初めてのことも、実践で身に着けることができました。

少なくともこのやり方は、日本で見ていた職人の世界ではありませんでした。閉鎖的ではないし、やりたいんだったらやれ、と自主性を尊重してくれる。そういうやり方が私に合っていたんでしょう、主人も認めてくれて、お前なかなかスジが良いんじゃないかと言っていただきました。

――「その店で修業中に、ウェスタンブーツの魅力に取りつかれたのでしょうか?」

そうなんです。その店がウエスタンブーツの修理を得意としているということは聞かされていたんですが、自分でもやっていくうちに面白くなってきたんですね。たくさんのブーツに接する中で、特にウェスタンは見た目の装飾にこだわる一方で、カウボーイが実用として求めるタフな機能性や履き心地が考えられています。メンテナンスを行うことが前提で作りこまれたブーツだからこそ、修理のクオリティによって見た目はもちろん履き心地すら違ってくるといった繊細なところに、靴としての奥深さを感じたんです。多くの種類に触れて、ウェスタンブーツってなんて素晴らしいものなんだと実感しました。

ウェスタンブーツの魅力に惚れたという点では、書店で『TEXAS BOOTS』という写真集に出会い、それを見て、ブーツにもいろいろあるんだなあとその奥深さや歴史を知って、のめり込んでいきました。この写真集は本当に面白くて、時代と共に変化してきたスタイルや、様々なカスタムブーツメーカーからビッグネームのブランドの紹介、多種多様な革の種類や色の組み合わせ、つま先やヒールの形など、いろいろな違いがあることを学びました。日本にいるときは全く知らなかったことばかりです。

写真集には古いブーツも紹介されているんですが、たとえばある特徴的な装飾を施したブーツは、その時代を象徴するスタイルで、今ではもう市場には出回っていないので、カスタムオーダーで制作するしか入手する方法がないんです。ただの履物としての機能以上の豊かさやクリエイティヴィティを感じました。そういうことが面白いなと思って、この本のおかげでウェスタンブーツの世界にのめり込んでいったと言っても過言じゃないですね。

そんな刺激を受けながらそこで1年半程働き、日本に帰ってきました。89年のことです。ウェスタンブーツの修理がしたいからという理由で渡米したわけではないのに、帰るときはウェスタンブーツの修理でなら食べていけるという自信を持っていました。

< < CLAW POINT - MITSURU SUGIURA WORKS GALLERY