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ミイラと革がもたらすクラフトマンシップ

『皮革素材は人類が獲得した最初の文明的素材である』という説があります。

他の生物の皮膚組織を利用して衣類や道具等を製作する様になった経緯や理由は様々だったと推測されますが、毛皮を含む皮膚組織を加工素材として利用する事を学んだ有史以前の人類は飛躍的な活動範囲の拡大と文明的発展を遂げたであろうと思われます。
生きた生物から剥ぎ取った皮膚組織はそのままでは腐敗、硬化してしまう為、物質的な安定をもたらす様々な方法が試みられた事も発見されています。
自分の口と歯で噛んで柔らかくする方法、石や棒で叩いて柔らかくする方法に始まり、動物の脳漿を用いた原始的な鞣しから現在まで続く植物の渋(タンニン)やクロムを用いた鞣しまで、様々な方法で人類は生活素材としての皮革を追求し続けました。

1991年にアルプス山中の氷河で発見された今から約5300年前(新石器時代)のミイラは発見時、様々な皮革製の衣類や道具を身に付けた状態だったそうです。(2005年に愛知県で開催された万博にて所持品を含むレプリカが展示されていました)
様々な偶然の重なりによって類を見ない保存状態だった彼(ミイラ)は発見された場所(氷河)にちなみ、発見当初は『アイスマン』と呼ばれていました。(今は『エッツィ』と呼ばれているそうです)
通常、皮革の様な有機物は金属の様に長期に渡る保存が困難で、これほど古い皮革製の道具が発見される事自体非常に稀な出来事であり、発見当時、一部の皮革業界の中でも色々と話題になりました。
ちなみに、発見された『アイスマン』が履いていた靴は下部が肉厚の牛革、上部が鹿革、内側には植物の蔓で作った内装が縫い付けられ、防寒用に草が入れられていたそうです。
耐久性が求められる下部に丈夫な牛革を用い、稼動する部位にはしなやかな鹿革を合わせ、更に型くずれ防止の補強や防寒性能を向上させる事まで考慮されていたと推測されますが、このノウハウも決して一朝一夕で得たものでは無かったでしょう。
より安全に、より早く移動する為の道具として自分達の足を皮革で覆う事から始まり、更なる耐候性や快適性を得る為に様々な試みや改良が施され、発見された『アイスマン』の靴に繋がっていたと考えると、クラフトマンシップとは有史以前の我々祖先が既に身に付けていた『生きる為の術』に端を発していた事に気付かされます。

この靴は『アイスマン』が自分で狩った獲物から剥ぎ取った皮を用いて製作された物でしょうか?
あるいは、部族内に手先が器用で物を作る事に長けていた仲間が存在して、クラフトマン的な役割を果たしていたかもしれません。
その器用な彼は日がな一日、様々な道具や服飾品の製造に携わり、新しい素材や情報を求め、新しい道具の開発や既存の製品改良に余念が無かった事かと思われます・・・

人類が皮革を素材として活用する様になってから幾星霜、どんなに科学技術が進んでも、どんなに文化が変容しても、綿々と続く営みに代わりはありません。
且つて、生きる為の術として培われたクラフトマンシップは、より良い素材を求め、より良い製品作りを研鑽し続ける精神としてこれからも守り、引き継がれて行くのでしょう。

そんな事に想いを馳せながら、今日も我々はより良い素材を求め、より良い物作りを研鑽し続けています。

writer : Artisan K